寒く老けないための「感情の記憶」

10代後半くらいの少年少女の恋愛には、
ほどよく風が抜けている感じがある。

深い事情がまだわかってないから、
実際面ではどたばたすることもあるけれど、
そのぶんものごとは新鮮で感動に満ちている。

もちろんそういう日々はあっという間に過ぎ去り、
気がついたときにはもう永遠に失われてしまっている
ということになるわけだけれど、でも記憶だけは新鮮に留まって、
それが僕らの残りの(痛々しいことの多い)人生を
けっこう有効に温めてくれる。


 僕はずっと小説を書いているけれど、ものを書く上でも、
そういう感情の記憶ってすごく大事だ。たとえ年をとっても、
そういうみずみずしい原風景を心の中に残している人は、
体内の暖炉に火を保っているのと同じで、
それほど寒々しくは老け込まないものだ。


『村上ラヂオ』村上春樹

映画を観て、音楽を聴き、小説を読むのは、
感動や刺激が欲しいというのもある。

でもそれ以上に、その過程で引き出される
「感情の記憶」や思い出の原風景の方が大きい。

五感を入口に過去の経験にアクセスする。


村上春樹が小説を書くときに限らず。
感情の記憶は表現のエンジンになる。

豊かな人生とは
思い出に生命力を与えられること。


『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ』きつかわゆきお

過去に生命を宿すものが感情だ。

ものを書くには、感情の記憶と
思い出の原風景にアクセスできる必要がある。

これは、時を経ても寒く老けない、
つくるものが枯れないコツでもある。


「今」の中で、新しい経験を仕入れ続けるだけではなく、
「昔」という思い出を今にフィードバックさせる。

これは、時を経た愉しみのひとつ。

思い出もワインのように醸成させる。
苦い体験ほど深く、味わい深くなる。



感情の記憶と原風景を残し、
取り出せるようにしておく。

村上ラヂオ (新潮文庫)


【後記】
デザイン勉強会へ。
ネタフルのコグレさんをはじめ、
アルファブロガーが集い、議論する。