【群れではなく】『蟹工船』小林 多喜二

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

先日、ロイターの方から取材を受けた
蟹工船』についてのコメント記事が、
International Herald Tribune』紙に出ました。

仕事ではなく、あくまで一読者としての意見です。

●Old Marxist novel revived by Japan's economic anxiety
http://www.iht.com/articles/2008/08/12/business/yen.php

・・・

記事になる過程で考えたことを。

労働者の惨状を描写し、
資本家に対抗するための団結劇として
現代と関連づけられたり、話題になっている本書。

ある書店の取材でも、若い世代に売れる話を伺う。

・・・

群れをなす闘争や、厳しい労働環境の中での怒りは、
時代を反映していたのかもしれない。

けれど、物語はやすっぽくみえてしまう。

ちょっとした高揚感と団結の可能性を知る上で、
当時はよかったのかもしれない。

けれど、そうやって団結して勝った「後」が問題、
ということは歴史が証明している。

僕も『ぼくらの7日間戦争』でこれと似た、
安易な対立構造(子どもVS大人や社会)や連帯に
昂揚して、つるんだり、悪ぶってみた。

そのだいぶあと、『希望の国エクソダス』を読んで、
不登校とインターネットの連帯の今的なあり方の提示に
なるほど、とおもった。

でも、つまるところ、こういう時代は「誰が敵か」
という設定は、解決策ではない。敵をつくって、
仲間と倒せばおわりというほど世の中は簡単に
できていない。

・・・

「自分が成熟して、タフに生きていくしかない」

という地味なメッセージ以外、ない。

その時に大事なことは、団結や連帯よりも、
他者との関係をいかに気づくか、共生するか。

好きな人と一緒に過ごす、仲間をつくり連帯する
ということよりも、自分と違う、異質な他者と
どのように折り合うか、だ。

生存戦略でありサヴァイバルの作法としての関係。

これが、基本にあるかどうか、ではないだろうか。

いつかの中も時が経てば、それぞれの道で
それぞれの生活がある。

その中でも、やっていくための、長い目。

出会い、接する、そのなかで、信用が生まれ、
仕事やさらなる出会いをつくったり、無くす
きっかけになる。

・・・

では、どんな本がいいのだろう?

個人の内面にフォーカスし、
精神の成熟を説くなら『夜と霧』。

成熟を説くマンガなら、現代は
バガボンド』と『海辺のカフカ』。

なんて、ことを話しながら思っていた。
で、結果として上のような記事になりました。

・・・

いつも聞く側なので聞かれるというのは勉強になる。

まだまだ、話が散乱したり、質問に答えていない
という反省もありつつ。

本を読むことが、社会的な事象とリンクし、
個人的な感想とが錯綜しながら、ひとつの
記事なる。そんなことを思った。

・・・

記事としてのアウトプット=世に広がるきっかけを
今回のようなかたち以外でもつくっていこう。


希望の国のエクソダス (文春文庫)

・・・追記

ここまで書いてみて、『希望の国エクソダス
ではなく、『半島を出よ』の方が、蟹工船
ではないかなと思った。

人に宿る獣性、群れの心理。群衆や大衆の次の形?