【しごとの原理】『ビジネスに「戦略」なんていらない』(平川克美)

ビジネスに「戦略」なんていらない (新書y 195)


戦略、ということばには
なにか知的な魅力がある。

相手を攻略するための手段であり、
知力がものを言う世界の戦いかた。

・・・

けれど、この言葉に踊らされる前に
日々、じぶんのやっていることを見直す。

出会い、話す、アイデアを練り、
商品をつくり、お客さんに提供する。

ビジネス、というカタカナではなく仕事、
はたらくこと、生活の一部としてとらえる。

ウェブも含め、働くこと(ビジネス)が抽象化
した時代において、地に足をつけて、
基本からかんがえるための本。

すぐに使えるノウハウとは一線を画す。

ビジネスに限らず、ものごとのメタな視点と
思考をつくる一冊。

4回くらい読み直した単行本
反戦略的ビジネスのすすめ』が文庫化。

あらためて、読み返したら深みのある本だなと。

本書は、以下の引用が主題。


・・・引用

お客さんと向き合って、喜んでもらえる
という交換の基本を忘れないようにしようよ、
ビジネスのすべての課題は、ビジネスの主体が
お客さんと何をどのようにして交換したか、
その結果、主体の側に何が残り、お客さんの側に
何が残ったのかということの中にあるはずだということです。

・・・ここまで


そこからなぜ交換するか、物語をつくるのか、時間の共有、
価値づけなどものごとの原理にもどって展開します。

個人的には、物語と時間の共有の秘密が目からウロコでした。

ビジネスに限らず、だれとなにをして、どのように生きていくのか
を考えるための本でもあります。



・・・その他引用

では、人が他者の人生から何かを学びたいと思うとき、彼は他者
のどのようなふるまいに期待したらよいのでしょうか?

あるいは、人が自分の人生を他者に伝えたいと思うとき、
人はどのようにして自分を説明しようとするでしょうか?

おそらくは、その人間がひとつの行為をどのような理由によって
選択し(あるいはその選択によって何を断念し)、そのときに
どのような意図、決意、逡巡があり、その行為がそのような
プロセスを経てひとつの結果になったのか、という「時間」の秘密を
共有する他はないはずです。

つまり、ともに苦労し、ともに喜びを分かつという「経験」に
出遭う必要がある。

これが、「物語」という形式を人に選ばせる理由です。
別の言い方をすれば、人には「物語」という形でしか
伝えられないものがあるのだということです。

わたしがいいたいことは、
実は「ビジネスはお金のためだけじゃないよ。
もっとも崇高な目的があるはすだよ」ということではありません。

ビジネスを「お金」であれ、「達成感」であれ、あるいは
経営者の自己実現であり、明確な目的が事前にあるものだと
する考え方そのものが、ビジネスをつまらなくさせている
原因のひとつであるということなのです。

ビジネスのもっとも基本的なところにあるのは、
よい商品やサービスを作ること、それを必要と
している顧客がいること、そしてその商品や
サービスを媒介として、ビジネスの主体が持っている技術や
誠意といったものと顧客の満足や信用といったものを
交換することに尽きるということです。

わたしは、この「当たり前」の事実、つまりビジネスにおいて
交換されるのはモノやサービスとお金であると同時に、技術や
誠意といったものが満足や信用といったものと交換されている
という二重の交換こそが、あらゆるビジネスの課題の中心であり、
そこからビジネスの過酷さも面白さも派生してくることを申し
上げたいのです。

モノやサービスやお金といったものばかりを見ていると、
その背後にある、非言語的なコミュニケーションというものは
見えなくなります。